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最高裁判所第二小法廷 昭和56年(オ)595号 判決

上告人

徳間直三郎

右訴訟代理人

渡辺文雄

被上告人

市村倉治

被上告人

徳田彌恵子

被上告人

小松川信用金庫

右代表者代表理事

鈴木秀次郎

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人渡辺文雄、同山田修の上告理由について

仮執行宣言付判決を債務名義とする不動産競売手続において競落許可決定が確定すると、実体法上競落不動産につき売買が確定的に成立し、競落人は、代金支払期日に競落代金を支払うことによつて不動産の所有権を取得できる地位を確保判旨することになるから、競落許可決定確定後に控訴に伴う強制執行停止決定正本が執行裁判所に提出された場合に、執行裁判所が、残された手続のうち配当手続を除くその余の手続、特に代金支払期日の指定、支払われた代金の受領、所有権移転登記等の嘱託手続を停止することは、右その余の手続が競落人のために確保された地位の実現をはかる手続の実質を有することに鑑み、競落人に確保された右の地位を左右することになり許されないものと解すべきである。これと同旨の判断のもとに、執行裁判所が本件建物につき競落許可決定確定後上告人から控訴に伴う執行停止決定正本の提出があつたのに、代金支払期日に被上告人市村倉治の支払つた競落代金を受領し、本件建物につき所有権移転登記の嘱託手続を進めたことに手続の違法はないとした原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(鹽野宜慶 栗本一夫 木下忠良 宮崎梧一)

上告代理人渡辺文雄、同山田修の上告理由

原判決は判決に影響を及ぼすこと明らかな法律解釈適用を誤まつた違法がある。

一 原判決は1 「不動産競売手続において競落許可決定が確定すると、実体法上競落不動産につき売買契約が確定的に成立し、競落人は代金支払期日に競落代金を支払うことによつて競落不動産の所有権を取得できる地位を保有することになる」旨判示する。

2 次に「競落許可確定後に控訴に伴う強制執行停止決定が執行裁判所に提出された場合に、執行裁判所が爾後の手続、殊に代金支払期日の指定、支払われた代金の受領、所有権移転登記の嘱託手続を停止することは、右の各手続が競落人の有する右述の地位の実現をはかる手続の実質を有することに鑑み、競落人の有する右の地位を左右することになるものとして許されず、執行裁判所としては、爾後の手続のうちたかだか配当手続を停止し得るに止まると解するのが相当である。」

3 更に「してみると前記代金支払期日に被控訴人(被上告人)市村の支払つた競落代金を受領し、本件建物につき所有権移転登記の嘱託手続をした執行裁判所の手続に違法の廉はない」旨論断する。

二 しかしはたしてそうであろうか。まず前記一2の点について考察するに、原判決は競落許可確定後の手続すなわち代金支払期日の指定、代金受領手続及び所有権移転登記の嘱託手続を同質の手続と考え、執行停止の対象となる手続とは別個の手続であるという。

だが、代金支払期日の指定及び代金受領手続と所有権移転登記の嘱託手続は本質的にその性質を異にする手続である。なぜならば、不動産執行にあつても金銭執行の手続と同様に差押・換価・満足の三つの段階をたどるものであるが、代金支払期日・指定及び代金受領手続については、強制執行手続の目的である「債権者の満足」のための手段となりうるが、他方所有権移転登記の嘱託手続にあつては、「債権者の満足」のための手段としての性質をまつたくもたずもつぱら競落人の利益を実現するための手続にほかならないからである。

端的にいえば、所有権移転登記の嘱託手続については、競落不動産引渡命令と同様に、競落代金の交付・配当(前記満足段階)という「本来の執行手続」が終了した段階においてなされる派生的・附随的な手段であるのに対し、代金支払期日の指定及び代金受領手続は、競落人をして「完全な所有権」を取得せしめる手続であると同時に、それ以上に債権者をして執行力ある請求権を満足させる手続にほかならず、前記の差押・換価・満足という「基本的な執行手続」の内容となつているものであり、決して基本たる執行手続と別個の派生する手続ではない以上、執行停止の対象となる手続といわざるをえないのである。

三 しからば、原判決のいうごとく「代金支払期日の指定、支払われた代金の受領、所有権移転登記の嘱託手続」を同例に扱い、執行停止の効力が代金支払期日の指定及び代金受領手続に当然及ばないと論断する原判決は明らかに法律的な解釈を誤まる違法があるといわざるをえない。

四 はたしてそうであれば前記一1の「競落許可決定が確定すると、競落不動産につき売買契約が確定的に成立し」とする点に関する原判決の法解釈も違法であり、むしろ競落許可決定が確定するも売買契約は確定的に成立せず、競落人が代金支払期日に競落代金を支払うことによつて始めて売買契約が確定的に成立し、競落不動産の所有権を取得できる地位も確立するといわざるをえないのである。こう解することによつて始めて従来より上告人が主張する債務者と競落人の利害の調和を実現することができるものであり、代金支払期日及び代金受領手続以前に上告人より執行裁判所に対し適法な強制執行停止の申立がなされている本件にあつて、執行裁判所としては強制執行停止の申立以後の代金受領・移転登記の嘱託を止むべきであつたし、他方第一審原審の裁判所は右以後の手続を進めた執行裁判所の違法を論及すべきであつたにもかかわらず、執行裁判所の強制執行手続を追認したも違法がある。

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